ラッコはその愛らしい姿で多くの人々を魅了していますが、実は絶滅危惧種として国際的に保護されている動物です。
ラッコが輸入禁止となった理由は、その希少性と、かつて過剰な乱獲によって生じた個体数の激減にあります。
輸入禁止はいつから始まったのか、また、どのような国際的な条約がこの決定に影響を与えたのかを理解することは重要です。
さらに、ラッコの繁殖が難しい理由や、捕獲が禁止されている背景には、どのような事情が隠されているのでしょうか。
本記事では、これらの問題に焦点を当て、日本の水族館におけるラッコの現状と未来について詳しく掘り下げていきます。
目次
ラッコの減少とワシントン条約の関係
- 輸入禁止の理由
- 輸入禁止はいつから?
- 輸入禁止に関する条約
- 捕獲禁止
- 繁殖が難しい理由
輸入禁止の理由
ラッコの輸入が禁止された背景には、その独特な生態と人間活動の影響が深く関わっています。
18世紀以降、ラッコはその密度の高い毛皮のために過度に狩猟され、個体数が劇的に減少しました。
さらに、1989年のアラスカ・プリンス・ウィリアム湾でのエクソンバルディーズ号の原油流出事故は、ラッコの生息地を大きく破壊しました。
この事故により数千頭のラッコが死亡し、残存個体にも深刻な影響を与えました。
こうした人間による過剰な捕獲と環境破壊が、ラッコを絶滅の危機に瀕させ、国際社会による保護措置の必要性を高めたのです。
輸入禁止はいつから?

ラッコの輸入禁止措置は、1998年にアメリカ国内法によって施行されました。
この法律は、ラッコの生息数の減少と絶滅のリスクを踏まえて制定され、国際的な保護を強化することを目的としています。
この措置により、ラッコの国際取引は厳しく制限され、特に水族館での新規のラッコ輸入は事実上不可能になりました。
この法律の施行以前は、ラッコの輸入は比較的自由であり、多くの水族館がラッコを展示していましたが、1998年以降、新たな個体の輸入が阻まれ、現存するラッコの個体数維持にも大きな影響を及ぼしています。
輸入禁止に関する条約
ラッコの輸入禁止に深く関与しているのが、国際自然保護連合(IUCN)とワシントン条約(CITES)です。
ワシントン条約は、1975年に発効し、絶滅の危機に瀕する野生動植物の国際取引を規制することを目的としています。
ラッコはこの条約によって保護されており、特に附属書IIに記載されています。
これは、ラッコが絶滅の危機にあると認識され、国際的な取引が規制されることを意味しています。
ワシントン条約の下で、ラッコの取引には厳しい制限が課され、これが水族館での新規輸入を困難にしているのです。
捕獲禁止
ラッコの捕獲禁止は、国際的な保護措置の一環として導入されました。
特にワシントン条約における規制が強化されて以降、ラッコの野生個体の捕獲は世界的に禁止されています。
この措置は、ラッコの生息地での乱獲による個体数の激減を防ぐためのものです。
ただし、この禁止措置により、水族館などでの新しいラッコの導入が困難になっており、飼育個体の老朽化や繁殖の難しさが、さらに飼育個体数の減少に拍車をかけています。
結果として、ラッコの自然な生態や行動を観察する機会が減少し、これらの動物への理解を深める機会も限られるようになっています。
繁殖が難しい理由

ラッコの繁殖が難しい理由には、いくつかの生物学的および環境的要因があります。
飼育下のラッコは、自然界での繁殖行動を模倣することが困難です。
自然環境では、ラッコは広範囲にわたる海域で活動し、繁殖期にはオスがメスを求めて広い範囲を移動します。
しかし、飼育環境下ではこのような自然な行動が制限され、繁殖行動に影響を及ぼすことがあります。
また、飼育下では、ラッコは人間から直接エサを受け取るため、野生での採餌技術や社会的な交流が不足しがちです。
この結果、飼育下での繁殖成功率は自然環境下に比べて低くなります。
さらに、飼育下の個体は遺伝的多様性の問題に直面することがあり、これも繁殖成功率に影響を与える要因となっています。
ワシントン条約とラッコの保護:日本の水族館での現状
- 日本での保護活動
- 北海道での繁殖
- 飼育している水族館
- ラッコが見られる未来の展望
- ラッコの危機についての総括
日本での保護活動
日本におけるラッコ保護活動は、野生個体の観察と研究に重点を置いています。
特に北海道東部では、ラッコの生態系への影響とその保全に関するプロジェクトが行われており、地域の生物多様性の維持に寄与しています。
しかし、国際的な取引規制による輸入制限や、飼育環境下での繁殖の困難さが、日本におけるラッコ保護の大きな課題となっています。
これらの制限により、ラッコの遺伝的多様性の確保や新しい血統の導入が難しくなっており、保護活動の効果を最大限に引き出すための新たなアプローチが求められています。
岬に戻りつつあるラッコたち
— NPO法人エトピリカ基金 (@gmF65cxXrQN3jDd) February 15, 2024
去年のドローン事件からとても見えずらい状況が続いていましたが、岬での直近の私の観察では一度に最大7頭が見られています。そのうちの5頭が雌でした。本当は雌は8頭がいても良いのですから、残りは岬以外の所にいるのか、それとも新天地に旅立ったかはまだ不明です。 pic.twitter.com/HMOUCK2DSG
北海道での繁殖
北海道では、ラッコの自然回復が顕著に観察されています。
特に霧多布岬周辺では、ラッコの母子の姿が頻繁に確認されており、この地域がラッコの繁殖地としての重要性を増しています。
これらのラッコは、かつて乱獲により絶滅の危機に瀕していたが、現在は自然環境での生息数が徐々に回復していることを示しています。
この自然回復は、ラッコの種の保存だけでなく、海洋生態系の健全化にも寄与しています。
ラッコは海藻やウニなどを食べることで海藻林の健康を保つ役割を担っており、その存在は海洋生態系のバランスを維持するのに不可欠です。
このように、ラッコの自然な繁殖活動が観察されることは、海洋生態系の再生と多様性の保護にとっても大きな意義を持っています。
飼育している水族館

日本の水族館におけるラッコの現状は、深刻な個体数減少に直面しています。
全国で飼育されているラッコはわずか2頭に限られ、その背景には国際的な輸入規制と飼育下での繁殖困難があります。
水族館でのラッコ展示は、生態系の多様性と海洋生物の保全意識を高める貴重な教育的活動として機能してきました。
ラッコは、その愛らしい姿で訪問者に深い印象を与え、海の生物に対する興味と理解を深める重要な役割を担っていたため、今後はこのような体験を提供する別の方法を模索する必要があるでしょう。
日本の水族館におけるラッコの飼育状況
以下の表は、日本の水族館における現在のラッコの飼育状況を示しています。
所在地 | 水族館の名前 | 飼育しているラッコの頭数 |
---|---|---|
三重県 | 鳥羽水族館 | 2頭(メス2) |
これらの水族館では、訪問者はラッコの飼育現状を間近で見ることができます。
しかし、全国的に見ると、ラッコの飼育頭数は極めて少なく、それぞれの水族館でのラッコの展示が大変貴重な機会となっています。
訪問者はこれらの水族館で、ラッコの愛らしい姿を楽しむことができると同時に、海洋生態系に対する保全の重要性について学ぶことができるでしょう。
これあんまり知られてないんですけど…ラッコって日本にあと3匹しかいないんですよね。
— 安心院バク (@bakunojob) July 23, 2023
・鳥羽水族館(三重県)に2匹
・マリンワールド海の中道(福岡県)に1匹
しかも3匹とも高齢&ワシントン条約で輸入できないので、あと数年で確実に日本からラッコはいなくなります。悲しい…見たい人は今すぐ見に行け pic.twitter.com/c1wbqgIDDL
【2025年1月4日追記】
2025年1月4日午前7時18分、マリンワールド海の中道で飼育されていた国内唯一のオスのラッコ「リロ」(17歳)が死亡しました。"イケおじラッコ"として親しまれてきたリロの突然の死は、多くの人々に深い悲しみをもたらしました。その死をもって1989年から続いてきた同館でのラッコ展示の歴史に幕を閉じることとなり、国内で飼育されている貴重な3頭のうちの1頭を失う結果となりました。
この訃報により、日本国内で飼育されているラッコは鳥羽水族館の2頭のメスのみとなりました。
ラッコの寿命は一般的に20歳程度とされており、現在飼育されている個体も高齢であることから、日本の水族館からラッコの姿が消えるのは時間の問題です。
1994年には100頭以上いた水族館のラッコたち。その歴史の終わりが、私たちの目前に迫っています。
お知らせ
— マリンワールド海の中道【公式】 (@marine_uminaka) January 4, 2025
2025年1月4日7時18分、リロが死亡しました。
体調を崩してからは治療を続けて参りましたが残念でなりません。
ラッコの魅力を伝えてくれたリロ、そしてリロを愛してくださった皆さまに感謝いたしますhttps://t.co/dw5Z7GzHiT pic.twitter.com/y57iHkgYch
ラッコが見られる未来の展望
日本の水族館でラッコを観察できる機会は、残念ながら近い将来失われる可能性が高まっています。
2025年1月現在、国内で飼育されているのは鳥羽水族館の高齢メス2頭のみとなり、新たな個体の導入も困難な状況が続いています。
しかし、希望はあります。
北海道、特に霧多布岬周辺では野生のラッコの生息数が増加傾向にあり、母子の姿も確認されています。
この地域での保護活動を強化し、エコツーリズムなどの新しい形での観察機会を模索することで、ラッコと人間との新たな共生の形を築くことができるかもしれません。
水族館では、これまでラッコの展示を通じて海洋生物への関心と理解を深める機会を提供してきました。
今後は、この経験を活かしながら、海洋生物の保護について考える場としての役割を継続していくことが期待されます。
このような変化は、一見後退のように思えるかもしれません。
しかし、これを機に私たちは、単にラッコを「見る」だけでなく、その生息環境である海洋生態系全体を守り、次世代に引き継いでいくための新たな取り組みを始める必要があります。
その意味で、今はラッコ保護における大きな転換点といえるでしょう。
「ラッコの危機:絶滅危惧種とワシントン条約の関係」についての総括
記事のポイントをまとめます。
- ラッコは1998年以降、各国の法規制により輸入が禁止されている絶滅危惧種である。
- 乱獲と環境破壊により個体数が激減し、国際的な保護対象種となった。
- 日本国内の飼育個体は鳥羽水族館のメス2頭のみとなっている。
- 飼育下での繁殖は、環境制限により極めて困難である。
- ラッコの寿命は約20年で、現在の飼育個体は高齢化が進んでいる。
- 北海道の霧多布岬では、野生ラッコの自然繁殖が確認されている。
- マリンワールド海の中道での最後のラッコ「リロ」の死により、36年の展示に幕を閉じた。
- 水族館でのラッコ展示は、海洋保護の重要な教育機会であった。
- 今後は新たな形での海洋保護活動が重要となっている。
- ラッコの保護には、環境保全と地域社会の協力が不可欠である。